エンジニアでもないのにMert Wangはなぜ科研向け図版SaaSを立ち上げ、25日でMRR1,000ドルに乗せられたのか
バイオインフォマティクスの研究者であるMert Wangは、科学論文向けの図版作成を楽にするPlottieを立ち上げた。無料の図版検索サイトでSEO流入を先に作り、その先に有料のAI作図プロダクトを置く二段構えで、広告費ゼロでも初期課金に結びつけた点が特徴だ。
- 100〜500万円
- SaaS
- 教育
- SEO
- Claude
- Cursor
概要
Mert Wangは、研究者向けの図版作成サービスPlottieを手がける創業者だ。本人はReddit上で、バイオインフォマティクスのPhDを持ちながら本格的なWeb開発の経験はほぼなかったと明かしている。その立場から、論文や学会発表で必要になる図版づくりの煩雑さを解消するため、Plottieを立ち上げた。
Plottieは単体のAI作図ツールではなく、無料の図版探索サイトと、有料のAI作成プロダクトを組み合わせた構成が肝になっている。無料側のplottie.artでは、オープンアクセス論文から集めた10万点超の科学図版を検索・保存できる。AI側のai.plottie.artでは、自然言語やデータ入力から、論文投稿に使える図やダイアグラムを生成し、キャンバス上で編集できるようにしている。
Mert自身はこの構成を、無料の発見体験から有料の制作体験へつなぐ導線として育てた。研究者がまず図版の見本を探し、その流れで自分の図も作りたくなる、という行動順序に沿わせた設計だ。
ビジネスモデル
Plottieの中核はSaaSモデルで、研究者個人やラボが図版作成に使うサブスクリプション収益を狙っている。無料の図版検索サイトで検索流入を獲得し、そこからAI作図の有料機能へ送客する、いわば「無料メディア兼データベース → 有料制作ツール」の二層構造になっている。
この無料側は単なる集客ページではない。PlottieのFAQやライセンス説明では、掲載図版はCC BY系のオープンアクセス論文由来で、出典情報も付けている。つまり、研究者にとって実用品として成立する検索基盤を先に作り、それをSEO資産として積み上げている。
有料側の価値提案は、コーディング不要で科学図版を素早く作れることにある。CSVやExcelからチャートを作る機能、フローチャートや科学イラスト生成、SVGやPDFへの書き出し、マルチパネル図版の編集など、論文作成の終盤で詰まりやすい工程をまとめて処理できる。BioRender代替比較ページでは、個人向け有料プランを月額12ドル、年額99ドルとして案内している。
集客面では、Mertは広告に頼らず、検索流入・研究コミュニティ・口コミを中心に伸ばしてきた。Redditでの説明では、流入の6割超がSEO由来で、研究室内の紹介も質の高い獲得源になっているという。一方で、コールドDMや有料広告、Product Huntはあまり噛み合わなかったと振り返っている。
収益規模
収益については、Mert本人がRedditでかなり具体的に数字を出している。2026年1月21日にローンチし、25日で約2,000人のユーザー、100人超の課金ユーザー、約1,000ドルのMRRに到達したという。広告費はゼロで、インフラ費は月100〜500ドルの範囲と述べている。
その後、Plottieの公式サイトでは「5,000+ academics」や、ブログ記事内で「3,000 beta researchers」といった利用規模の表現も見られる。もっとも、直近のMRRを更新した一次情報までは確認できなかったため、売上の最新水準は断定しにくい。確認できた月次売上の目安としては、少なくとも初期段階でMRR1,000ドル規模に達していた、という整理が妥当だろう。
学べるポイント
第一に学べるのは、プロダクトの前に“入口”を作った点だ。多くのSaaSは完成した有料機能から売ろうとするが、Plottieは先に無料の図版探索データベースを作り、研究者が日常的に訪れる理由を用意した。これは単なるコンテンツSEOではなく、製品と課題がきれいにつながった獲得設計になっている。
第二に、無料βではなく割引課金βで検証した判断も大きい。Mertは初日から半額で募集し、97人を有料βに迎えた。その過程で、1枚ずつ見るチャットUIでは足りず複数図を並べたいこと、AI生成物は細かく編集できないと使いにくいこと、グラフだけでなくダイアグラム需要も強いことが見えてきた。料金を払った利用者からの不満は、機能優先順位を決める材料として濃かったわけだ。
第三に、AIで開発速度を引き上げつつ、技術負債も受け入れていた点は現実的だ。Mertは自分ひとりで、ClaudeとCursorを使いながらNext.jsアプリ、GoのAPI、Python FastAPIサービスを組み立てたと書いている。完璧な実装より、まず使われる体験を市場に出すことを優先した姿勢は、非エンジニア創業者にとって参考になる。
日本での再現可能性
このモデルは日本でも一定の再現性がある。ただし、そのままコピーするより、研究者や専門職が日常的に検索する“見本データベース”を先に作れるかが分岐点になる。
再現しやすいのは、医療、法務、建設、教育のように、成果物の見本探索と制作が連続している領域だ。たとえばテンプレート集、実例集、規格準拠サンプル集を無料で提供し、その延長線上に生成・編集SaaSを置く形は応用しやすい。日本語SEOの競争が英語圏ほど激しくないテーマでは、むしろ先行者優位を取りやすい可能性もある。
一方で、Plottieがうまく機能した背景には、オープンアクセス論文という再利用可能な素材基盤があった。日本市場で同じ型を狙うなら、著作権処理、引用ルール、業界ごとの公開データの扱いを丁寧に設計する必要がある。また、研究者市場は口コミの効き方が強い半面、汎用的なProduct Hunt的コミュニティとは必ずしも重ならない。日本でやる場合も、X、学会周辺、研究室ネットワーク、専門コミュニティなど、狭く深いチャネルを押さえるほうが合いそうだ。
総じて、Plottieの再現ポイントは「AIそのもの」よりも、「無料で役立つ探索体験を先に持ち、そこから高単価ではなく高納得感の課金に送る」設計にある。日本でも、専門職向けの縦深い課題に絞れば、十分試す価値のある型だ。
出典
- https://www.reddit.com/r/SaaS/comments/1r6kgv4/im_a_researcher_who_cant_code_built_a_saas_with/
- https://plottie.art/about
- https://plottie.art/terms
- https://plottie.art/license
- https://plottie.art/faq
- https://plottie.art/blog/getting-started/create-scientific-figures-with-ai
- https://ai.plottie.art/
- https://ai.plottie.art/alternatives/biorender
- https://peerlist.io/jianhuamert/project/plottie
- https://peerlist.io/scroll/post/ACTHA9E9GK7BKE7B8IKPGEDQ7K9DDM
- https://twstalker.com/jianhuamert
コメント
Web開発未経験のバイオインフォマティクスのPhDがSaaSビジネスを開始する。まさにAIは自分でビジネスを始めることを過去と比較して、格段に容易にしている事例だ。
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